夢のあとに(1)パリ1 区 シャトレ劇場 ルーヴル

 パリと東京は似ており、西が山の手で東が下町です。面積はおおざっぱにパリが山手線内くらいといわれ、実際は105.397㎢と63~69.52㎢で、パリのほうが広い。東京23区は622.99㎢ですから、東京区部の広さはパリ市の6倍もあります。パリだけではないが、ヨーロッパのまちはむかしの城壁内外が市域をなすためあまり大きくないのです。そんなわけで、わたしはパリもウィーンもところによりメトロや路面電車も使いながら、一日じゅう歩きまわったのでした。詩人・金子光晴1920,30のいう「パリの隅々までほっつき歩くのはしんどいが楽しいこと」には同感です。

 パリ市は1860年にモンマルトルなど11の町村を併合して、行政区画を20区に区割りしました。都心部を1区とし時計回りに2回り半で東の20区にたどります。1区当たりの面積は平均で東京の1つの区より狭い。北の18区は白亜がそびえるモンマルトル、西はお屋敷街のある16区です。いまや夢のあと[跡・後]になったパリ20区を順にたどります。1区はシテ島の西半分と右岸の都心部でルーヴル、チュイルリをふくむ長方形。島にはロマン・ローランが「サント・シャペルにフランスの魂がある」と彫刻家・高田博厚に教えてくれた王室礼拝堂があり、ステンドグラスは必見。島の突端ちかくドーフィンヌ広場に国民いちばん人気の王アンリ四世像が立ち、<パリのノートルダム>の歌詞にもおり込まれました。モンタンは広場に面したアパルトマンに住んでいたという。

 右岸にはシャトレ広場1番地に《シャトレ》劇場1862,2500席があり、レヴューが『劇場の30年』1908。オペレッタはジョルジュ・ゲタリ『ドン・カルロスのために』1951、わたしが再演2006,07(主演M.アブリ)を観たR.マリアーノ主演の『メキシコの歌手』初演51~53と『マドリードの王子』67。芦野宏が楽屋を訪問したティノ・ロッシ第1作『地中海』1955~56と『太陽を売る男』82。G.ゲタリ『ムッシュ・カルナヴァル』65、『美しいエレーヌ』2000。劇場初のシャンソン公演はバルバラ1987*で、93も。トレネ50周年88、H.サルヴァドール2001、J.ジャンメール03、J.グレコ07,12,15、S.ヴァルタン11、J.クレール13、N.ムスクーリ14、セルジュ・ラマ14など。

 ルーヴル美術館は1970年代、ピラミッドが建つまえ数回とあとの1度だけ、印象派美術館は対岸のオルセーに移るまえと久しぶり2007オランジュリとともに通いました。イヴ・モンタンには<ルーヴルのふしぎな出来事>という歌があり、閉館中にはヴィーナスやモナ・リザたちが館内で遊びふざけているという奇想天外な内容です。ルーヴルの隣りもモンタンが歌うヴィクトル・ユゴーの<チュイルリの庭>ですが、詩の内容は美しい庭園風景を詠っているものではありません。

 ルーヴルの北側にはリヴォリ通りが走っており、となればジャクリーヌ・フランソワ創唱で彼女の代名詞<パリのお嬢さん>1948です。来日公演にふれたのは1975.5.8。この歌の内容は彼女の裕福な生い立ちとは似つかわしくないのですが、そこは芸の力でしょう。映画『パリのスキャンダル』1948では彼女の陰唄が大ヒットして、『水色の夜会服』1955には彼女が出演し歌いました。

 芦野宏は薩摩忠訳で1956年以前からとりあげております。こんな歌も彼は聴かせるのです。

  可愛い マドモアゼル・ド・パリ/パリのお針娘/リヴォリの街角は/お前たちの世界/小さな
  両手に花束を抱えて/ちょっぴり浮気で/おしゃれな娘よ

 ルーヴルからオペラ・ガルニエへ向かうオペラ大通り5にかつて<谷間に三つの鐘>の作者ジャン・ヴィアール経営のキャバレ《シェ・ジル》1949~59があり、ダミア、J.ドゥーエ、フレール・ジャック、C.ヴォケール、ひげの四重唱らが出演。経営が替わり《テート・ド・ラール》59~73にグレコ、ミック・ミシェル、バルバラ、ダリダ、ムスクーリ、トレネ、M.ラフォレらが出演します。1971夏ナナ・ムスクーリの<さくらんぼの実る頃>はシングル盤をもとめ、ホテルでは持参のラジオから聞こえました。パレ・ロワイヤル西のモリエール通り5にキャバレ《シェ・アニエス・カプリ》1938~58(66) 40席があり、戦前・戦中(一時閉店)ムルージ、G.モンテロ、C.ヴォケール、ひげの四重唱らが出演。北のボージョレ通り5フランシス・クロードが経営するキャバレ《ミロール・ラルスイユ》1951~65,200席に左岸6区《クオッド・リベット》1948~50から引きつづきレオ・フェレ、ソヴァージュら。クロード夫人となるミシェル・アルノーが初出演しました52。(2019.1.18)  後藤光夫©

パリ20区
サント・シャペル 1978
『メキシコの歌手』を鑑賞したシャトレ劇場
芦野宏、『地中海』公演のティノ・ロッシ訪問1956
リヴォリ通り 2012 <パリのお嬢さん>
キャバレ・レストラン La Tête de l’Art 1971夏
街頭のポスターとオランピアの予告
 
1971 ムスクーリほか