帰途にふり向いてくれたイヴ・モンタン1979.12.26

歌めぐり旅(10)青春の決算

 南仏めぐりの起点にしたニース、ホテル・ネグレスコからタクシーでたどり、途中で街を遠望しながらサン・ポール・ド・ヴァンスに着きました。城門をくぐり夜来の小雨に濡れた石畳の小路をそぞろ歩きます。両側には軒を連ねて画廊や骨董・衣料・装飾などの店、カフェ、サロン・ド・テ、レストランなど。金属細工の看板が個性ゆたかなデザインで来訪者を歓迎しているようです。ウィンドーや店内もやさしい照明に照らされ、親しみが感じられる手づくり作品で飾られています。

 散策をたのしんだあと城壁の外へ出ました。運転手に言われるまま、帰途らしいひとに追いつきます。下車して声をかけたら一瞬ふきげんそうでしたが、ちゃんとポーズをとってくれました。イヴ・モンタンです。「大阪? 東京?」「東京からです」などの片言と握手だけ、家路をじゃましないようツーショットもサインもせがまない、そんな数分間でした。忘れもしない1979.12.26のことです。大きな手はふっくらとしてやわらかく、熱い血潮がつたわるような温もりを感じました。

 そのころ彼は12年ぶりとか久しぶりのLP録音中(1979.11.15-80.1.15)で、1981~82年の長期リサイタル、ワールド・ツアーも企画していたのでしょう。新譜はリリースされた80年にもとめ、リサイタルはパリ3連夜、東京で2回も鑑賞しました。それもあの邂逅のせい?かもしれません。
 LPの新曲でA面1曲目はリサイタルでは朗誦<心ならずも>のつぎ、3番目に歌われました。

    青春の決算 ジャン=ルー・ダバディ詞、ミシェル・ルグラン曲、モンタン、中村敬子訳
 幸せな日々に白い鳩1羽/日暮れと 青い目の一べつ/プラスすすり泣きとバイオリン/人生と
 こわれた時/それを人は過去と呼ぶ…   ……
 マイナス、これから生まれる連中/プラス、窓の中の見知らぬ人/プラス、男たちの愛/プラス
 またはマイナス 女たちの愛/俺はみんな捨てて ひとつだけ拾う/…
 イコール/プレヴェールの3行詩上の/平衡のとれた男/けれど、それは自由な3行詩

  「白い鳩1羽」それが夕陽に染まると金色にかがやいて「黄金の鳩」に見えるのが、この街いちばんのホテル・レストラン「コロンブ・ドール」命名の由来らしい。プレヴェールはここでは疎開、静養、ホテルで仕事をし、のちに3行詩<コロンブ・ドール>を捧げています。長編詩<それはサン・ポール・ド・ヴァンスでのことだ>も書きました。彼がシモーヌ・シニョレをモンタンに紹介したのもこの街ですし、彼らはここでよく食事をし、そばの広場ではペタンクなどで興じていたそうです。モンタン&シニョレの結婚式は街で見てきた頂上のサン・ポール教会で、プレヴェールが新婦側の立会人を務めます。立ち寄った小広場の泉では、LPジャケットでモンタンがポーズしていました。街もホテルも、彼らには居心地のいいところだったようです。

 この旧市街に近い樹林のなかにマーグ美術館があります。プレヴェール詩集を出版したガリマールのジュニアがパリの画廊についで開設1964しました。白いモダンな建物の内外に作品が展示されている作者のなかで、ミロはとくにプレヴェールと親しかったようで、ジャコメッティの自宅には同居させてもらい、動く彫刻作家カルダーとは詩画集『祭り』を出した仲です。いちばんのお目あては、パリのユネスコ本部の庭でも見てきたホアン(ジョアン)・ミロ(1893-1983)でした。

 シュルレアリスムの1920年代、1900年生まれのプレヴェールたち仲良し3人組の根城はパリのシャトー街54番地にありました。7歳年上のミロは1920年バルセロナからきて、その街に近いブロメ街45番地にアトリエを借ります。彼らはすぐに付きあいがはじまり、交友がつづいていたのでしょう。月日は流れ、1961年ごろミロのさそいでプレヴェールは<鏡・ミロ>を書きます。

 ミロという名前のなかには鏡[ミロワール]がある/時折この鏡に映るブドウの木とブドウ酒の世界/
…… (柏倉康夫訳)。そして、ミロとの詩画集ができました。

 そのまえにも詩画集『ホアン・ミロ』1956が刊行されています。(小笠原豊樹訳、1966)
 詩集『スペクタクル』1951には長編詩<ミロの庭に>が収載されていました。(2017.2.18) 後藤光夫©

帰途にふり向いてくれたイヴ・モンタン1979.12.26
帰途にふり向いてくれたイヴ・モンタン1979.12.26
コロンブ・ドールとその看板
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201702d
サン・ポール・ド・ヴァンス 街なかの泉
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新譜LP『昨日、今日…』は逢ったときと同じサファリルック
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林の奥にマーグ美術館 好きなミロ、カルダー、など
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