歌めぐり旅(2)湖畔メルビッシュ

 オペレッタは初見でも魅了されることが多いでしょう。オペラとちがいセリフがあり、原語でわからなくても歌われるメロディが美しいからです。はじめてでもどこかで聞いたような懐かしい調べなどで、やみつきになります。歌もセリフも訳詞なら、より楽しくなるでしょう。来日公演ではセリフ部分はバレエでサービスなんてこともあります。予備知識はあるにこしたことはなく、オペレッタ協会の面白講座とカルチャーの講座は楽しくためになりました。協会創立者の寺崎裕則、田辺秀樹、中村雄二、荒井秀直ほかの諸先生です。田辺先生は作品を分析して、アリア、ヴィーナーリートを自らピアノを弾いて聴かせます。シュランメルともども好きなヴィーナーリートの特徴は職業・わが街の自慢、酒の賛美、人生の諦観・達観であり、愛・恋の歌はオペレッタにゆずり極少との解説。寺崎先生の「オペレッタは恋の展覧会・愛の百科事典」に呼応して得心でした。

 オペレッタについて、サン=サーンスは「オペラのふしだらな娘だが、魅力に欠けるものではない」といい、われらのペーター・ミニッヒは「オペラの可愛い妹」と評し、シュテファン・ツヴァイクは「人生を軽やかに、活気づけ、多彩に、陽気にしようとした芸術」と述べています。

 『メリー・ウィドウ』の歌は、アリア<ヴィリアの歌>ほかみんな大好き。なかでもカミーユとヴァランシエンヌの家庭生活の魅力<すてきなお部屋でしょ>は、割愛されることが多い愛らしい歌。カミーユのロマンツェ<バラのつぼみが>の口説きにあらがえる女性はいるでしょうか。主役ダニロとハンナのデュオ<くちびるは黙し>のメロディは、とろけるように美しいワルツです。

  唇は黙っていてもヴァイオリンはささやく「私を愛して」/ワルツのステップも一足ごとに言っている「お願い 私を愛して」/
       組む手と手が それをはっきり私に告げた/握る手はうそをつかない「そうよ、あなたは私が好きなのよ!」(荒井秀直訳)

 ウィーンの森、北の丘カーレンベルクのふもとヌスドルフHackhofergasse18にレハール邸(博物館)があります。銘板には『魔笛』の作者シカネーダーと楽譜つきでリヒャルト・タウバーの名前があり、作曲者と歌手はバート・イシュルの別荘も隣どうしでした。タウバーは『パガニーニ』1926、『ロシアの皇太子』27、『フリーデリケ』28、『微笑みの国』29、『ジュディッタ』34初演の主役です。彼は38年オーストリアを去り、ロンドンへ亡命40します。スイスで開いた「レハール&タウバーさよならコンサート」レハール指揮ベロミュンスター放送管弦楽団46がLPにあり、歌:いつも微笑みをたたえ、君こそわが太陽、君はわが心のすべて、演奏:『エヴァ』序曲ほか。

 ウィーンの南東60キロほどのノイジードラー湖畔で毎年7月半ば~8月末に、メルビッシュ音楽祭があります。1957年にはじまり2005年は『メリー・ウィドウ』百周年で、ツアーを待てずにひとりで出かけました。総監督(1993-2012)のハラルド・セラフィンはツェータ役も、指揮(1994-2008)はルドルフ・ビーブル、プラスコヴィア役はミルヤーナ・イーロッシュ、お三方は34年まえ1971年にこの演目をアン・デア・ウィーンではじめて見たときと同じ顔ぶれです。それにカスカーダ役はセラフィン&イーロッシュの愛息ダニエル・セラフィンでした。

 セラフィンとビーブルのコンビ時代は、観客席6000で毎夏36公演22万人ほどの盛況がつづいたそうです。『メリー・ウィドウ』ほど世界じゅうで愛されるオペレッタはありません。メルビ2005は豪華な配役で堪能しました。これまで鑑賞したオペレッタの最多は『メリー・ウィドウ』で、ビーブル指揮のフォルクスオパーと協会、二期会ほか。<唇は黙し>20数種のなかでもっとも好んで聴くのは、ロベルト・シュトルツ指揮のマルギット・シュラム&ルドルフ・ショック。珍しいものに、芸大同窓でオペラ・コミック専属だった砂原美智子&芦野宏(78.9.15録音)があります。

 2005年夏はメルビッシュのほかに、アン・デア・ウィーンではクランクボーゲン音楽祭の『ルクセンブルク伯爵』が見られ、桟敷席に交代指揮者プラシド・ドミンゴを見かけたり、近郊のバーデンでは<ヴォルガの歌>が聴ける『ロシアの皇太子』を堪能しました。2つともレハール作品。この季節に市内では、テレジアヌム、シェーンブルンでも、地方の音楽祭ならバート・イシュル、バート・ハル、クフシュタイン、キットゼーなどでオペレッタを楽しめるそうです。 (2016.6.18)  後藤光夫©

LEHAR SCHLOSSEL(フランツ・レハール博物館)
LEHAR SCHLOSSEL(フランツ・レハール博物館)
????君はわが心のすべて リヒャルト・タウバー
????君はわが心のすべて リヒャルト・タウバー
メリー・ウィドウ メルビッシュ2005
メリー・ウィドウ メルビッシュ2005

 

 

シュトルツ指揮 M.シュラム&R.ショック
シュトルツ指揮 M.シュラム&R.ショック
さよならコンサート レハール&タウバー
さよならコンサート レハール&タウバー
メルビッシュ舞台2005.7.15 19:15(開演20:30)
メルビッシュ舞台2005.7.15 19:15(開演20:30)
『ロシアの皇太子』SOMMERARENA
『ロシアの皇太子』SOMMERARENA